中国科学技術大学の研究者らは、複数の超低温原子を絡ませることに成功した。『Physical Review Letters』誌に掲載されたこの研究では、10個の原子からなる1次元チェーンと8個の原子からなる2次元グループを絡ませることに成功した事を報告している。研究チームによると、この成果は、光学格子内の超低温原子を用いたスケーラブルな量子プロセッサーの構築に向けた重要な一歩だという。
レーザーで生成された捕捉サイトを周期的に配列した光格子に捕捉された超低温原子は、量子コンピューティングの有望なプラットフォームと考えられてきた。しかし、これまで研究者たちは、複雑な量子計算を行うために重要な要件である、2つ以上の原子を同時に絡ませることに苦労していた。
この課題を克服するため、「中国の量子コンピューターの父」とも呼ばれるJian-Wei Pan氏率いる研究チームは、交差角スピン依存光学超格子を用いた新しい技術を開発した。これにより研究チームは、適度に離れた原子の上に量子ゲートの層を実装し、10個の原子の鎖や8個の原子のグループを絡ませることが可能になった。研究チームはまた、量子ガス顕微鏡と高精度空間光変調器を用いて、原子の状態を1原子分解能で制御し、画像化した。
この研究結果は、光格子ベースの量子プロセッサーに必要な構成要素のいくつかが実用化されたことを示している。複数の原子を絡ませ、単一原子レベルでの制御とイメージングを実現することで、研究者らは、スケーラブルな量子計算とシミュレーションへの道を開いた可能性がある。
研究チームはこれまでに、2,000個以上のルビジウム原子を含む系で、原子のペアをもつれさせることに成功している。今回の実験では、超格子と呼ばれる、各格子サイトに2つのトラップ位置を持つ2次元格子を使用した。同じ超格子と、量子ガス顕微鏡や空間光変調器などの追加技術を用いることで、研究者たちはもつれ合いをより大きな原子群にまで拡大することができた。
光格子内の超低温原子は、優れたコヒーレンス特性を持ち、高度な並列演算が可能である。さらに、この研究で達成されたもつれ原子ペアは、95.6%という高い忠実度と、2.20±0.13秒という比較的長い寿命を有している。
複数の原子をもつれさせ、それらを単一原子レベルで制御する能力は、実用的な量子コンピューターを構築する上で極めて重要である。これにより、量子情報の基本単位である個々の量子ビットの操作と測定が可能になる。このアプローチのスケーラビリティは、将来の量子プロセッサーの有望な候補となる。
これはエキサイティングな第一歩ではあるが、それでも第一歩である、と研究者たちは言う。スケーラブルな量子コンピューターの実現には、まだ多くの課題が残されている。
論文
- PHYSICAL REVIEW LETTERS: Scalable Multipartite Entanglement Created by Spin Exchange in an Optical Lattice
参考文献
- American Physical Society: Milestone for Optical-Lattice Quantum Computer
研究の要旨
光格子中の超低温原子は、優れたコヒーレンス特性、スピンを用いた高度な並列演算、量子ビットアレイで達成される超低エントロピーにより、量子計算の有力な候補となる。このため、超格子では膨大な数の並列もつれ原子ペアが実現されている。しかしながら、より困難な課題は、量子計算の基本資源である多粒子エンタングルメントをスケールアップして検出することである。本レターでは、単一原子の操作と検出のための量子ガス顕微鏡を組み込んだ、適度に離れた原子上の量子ゲートの層を実装するための交差角スピン依存光学超格子を開発することにより、量子ゲートに基づくアーキテクチャの機能ビルディングブロックを実現する。ベル状態の忠実度は95.6(5)%で、寿命は2.20±0.13秒であり、1次元10原子鎖と2次元プラケットからなる多部位エンタングル状態の2×4
原子の二次元プラケットに接続する。この多粒子エンタングルメントは、さらに完全な二分割非分離性基準で検証される。これは、スケーラブルな量子計算とシミュレーションに向けた新しいプラットフォームを提供するものである。
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