ライス大学とウィーン工科大学の新しい研究により、電気を流すと液体のように振る舞う量子物質の不思議な性質が明らかになった。研究者らは、イッテルビウム、ロジウム、シリコンの希少化合物(YbRh2Si2)でできたナノワイヤーで、電荷の量子揺らぎ、すなわち「ショットノイズ」を測定した事を報告している。その結果、ノイズは予想よりもはるかに小さく、電荷キャリアは通常の金属のように不連続な単位や準粒子ではないことが示唆された。
この研究は、YbRh2Si2の奇妙な金属性を示す最初の直接的証拠である。この量子臨界物質は、高度な量子もつれと特異な温度依存性を示す。
銀や金のような標準的な金属とは異なり、YbRh2Si2は、多数の電子の相互作用によって生じる明確な量子オブジェクトである。
ライス大学のDoug Natelson准教授は、「ノイズは通常のワイヤーに比べて大幅に抑制されています。これは、準粒子がよく定義されたものではないという証拠かもしれないし、準粒子が存在しないだけで、電荷はもっと複雑な動きをしているのかもしれない。私たちは、電荷がどのように集団で動くことができるのかについて話すための適切な語彙を見つけなければなりません」と、述べている。
例えば、銅酸化物超伝導体の微視的物理は、彼が見ていた重い電子系とは全く異なっていたという。
彼は、銅酸化物超伝導体はすべて、奇妙な金属に特徴的な、温度に対して直線的な抵抗率を持っており、奇妙な金属の振る舞いを示す他の何十種類もの化合物のいずれか、あるいはすべてに、同様の振る舞いが生じるのではないかという、より大きな疑問を投げかけた。
ショットノイズ測定
Natelson准教授らは、ショットノイズ測定と呼ばれる手法を用いて、ナノワイヤー中の電荷の粒状性を調べた。「電流を流すと、その電流は離散的な電荷キャリアの集まりになります。それらは平均的な速度で到着しますが、たまたま時間的に接近していることもあれば、離れていることもあります。ショット・ノイズ測定は、基本的に、電荷が何かを通過するときの粒状性を見る方法です」とNetelson准教授は説明する。
この研究は、2001年にYbRh2Si2の奇妙な金属性を説明する量子臨界性の理論を提唱したライス大学のHarry C. and Olga K. Wiess物理学・天文学教授であり、主席理論家であるQimiao Si氏も関与している。Si氏によれば、低いショットノイズは、電子が局在化しかけており、準粒子がフェルミ面上のあらゆる場所で失われていることを示唆する彼の理論を裏付けたという。
「低ショット・ノイズは、電荷-電流キャリアが、奇妙な金属性の根底にある量子臨界性の他の要因とどのように絡み合っているのかについて、新たな洞察をもたらしました。これは、これらの物質の量子物理学を理解する上で大きな前進です」と、Si氏は述べている。
論文
- Science: Shot noise in a strange metal
参考文献
- Rice University: ‘Strange metal’ is strangely quiet in noise experiment
研究の要旨
高温超伝導体から重い電子系金属に至るまで、ストレンジメタルの振る舞いが観測されている。従来の金属では、電流は準粒子によって運ばれる。ストレンジメタルでは準粒子が存在しないことが示唆されているが、直接的な実験的証拠はない。われわれは、重い電子系ストレンジメタルYbRh2Si2のナノワイヤーにおいて、電流を運ぶ励起の粒状性を調べるためにショットノイズを測定した。従来の金属と比較すると、これらのナノワイヤーにおけるショットノイズは強く抑制されている。この抑制は、フェルミ液体中の電子-フォノン相互作用や電子-電子相互作用のいずれにも起因するものではない。われわれの研究は、他のストレンジメタルの同様の研究への足がかりとなるものである。
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