室温超伝導体の再現は失敗に終わった

masapoco
投稿日 2023年5月18日 13:55
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今年の3月、ロチェスター大学のRanga Dias教授のグループが、室温・室圧付近で超伝導特性を示したとされる物質の合成に成功したことが報告され、大きく話題になった。だが、Dias氏自体が以前に室温超伝導体を発見したという論文で物議を醸し、後に論文を撤回した経緯があることから、彼の新たな報告に対して懐疑的な見方も多かった。そして、実際に実験の再現に成功したとの報告もなかった事から、その後の追試が待たれる所だったが、今回、南京大学の研究者が、室温と比較的低い圧力で超伝導を示す化合物について述べたDias氏らの論文の再現を試みた報告を発表した。研究チームは、同じ化合物を製造したことを示す説得力のある証拠があるにもかかわらず、この物質には、超低温でも超伝導の兆候を見いだせなかったと述べている。これは、以前にも同様の事件があったDias氏らによるオリジナルの研究論文に疑問を投げかけるものである。

ロチェスター大学Ranga Dias氏の主張

Dias氏らの論文では、「窒素含有水素化ルテチウム」について、温度294K、圧力1GPa、つまり室温・室圧付近で超伝導を示す証拠を発見したと述べている。

研究グループは、この化合物を高圧高温環境下で合成し、その超伝導特性を調べた。ただし、試料中の水素と窒素の比率を確定するためには、さらなる研究が必要だとしている。

なお、Dias氏による超伝導研究は過去にもあり、炭素-水素-硫黄の化合物が示す室温超伝導を報告していた。しかし、その論文は、著者が他の人が実験を再現するのに十分な情報を提供せず、データの共有を求められた際にも回避したため、撤回されている。

Dias氏らの実験を再現

今回の研究では、科学者たちが高温高圧合成技術を駆使して、原著論文とまったく同じ濃紺色の窒素含有水素化ルテチウムを作製した。このことは、ラマン分光法のパターンもDias氏らの論文と非常によく似ていたことからも裏付けられている。

さらに、エネルギー分散型X線分光法を用いて、試料に窒素が含まれていることを確認した。超伝導の有無を調べたところ、この化合物は常圧で350Kから2Kの間で金属的な挙動を示した(つまり、ある程度の抵抗がある)。

さらに、2.1GPaから41GPaまで徐々に圧力をかけていくと、化合物の色が濃い青から紫、そしてピンクがかった赤へと変化することが確認された。しかし、抵抗値を測定したところ、2Kまで温度を下げても、金属的な挙動は改善されたものの、超伝導を示すことはなかった。

また、磁化などの他の特性も調べたところ、この化合物は超伝導を示さないことがわかった。このことから、窒素含有水素化ルテチウムは超伝導特性を持たないという結論に至った。

この現象の違いが、2つの試料の窒素と水素の含有量の違いによるものなのか、それとも別のものなのかは、まだわからない。しかし、この新しい研究が発表されたことで、元の著者に状況を明らかにするようプレッシャーを与えることになるだろう。


論文

参考文献

研究の要旨

最近、窒素をドープしたルテチウム水素化物において、ほぼ常温の超伝導が確認された1。これを契機に、低圧下での室温超伝導の探索に世界的な関心が集まっています。我々は、高圧高温合成法を用いて、窒素ドープしたルテチウム水素化物(LuH2±xNy)を得ることに成功した。このルテチウム水素化物の色は濃紺で、構造はFm3¯mを得ることに成功した。この構造は、文献1で報告されたものと同じである。1 で報告されたものと同じ構造であり、格子定数に若干の違いがある。また、ラマン分光法でも、文献1と同様のパターンが確認された。1. エネルギー分散型X線分光法(EDS)により、試料中の窒素の存在を確認した。2.1~41GPaの圧力をかけると、暗青色から紫色、ピンク赤色へと徐々に色が変化することが確認された。高圧下での磁化の温度依存性は、100Kから320Kの間で非常に弱い正のシグナルを示し、100Kでは磁場によって磁化が増加するが、これらはすべて100Kでの超伝導には期待できない。したがって、この窒素ドープルテチウム水素化物では40.1GPa以下の圧力では常圧での超伝導はないと結論づけられた。



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