音速を超える超スピードで射出された物体の衝撃でさえも受け止めることが出来る新たな素材が開発された。
この画期的な衝撃素材は、ケント大学の研究チームによって開発されたが、その素材は興味深いことに、タンパク質の一種である「タリン」がベースに用いられているとのことだ。
タンパク質ベースの合成生物材料「TSAM」
Ben Goult教授とJen Hiscock教授が率いるチームは、TSAM(Talin Shock Absorbing Materials)と名付けられた新しいタリン・タンパク質ベースの材料ファミリーを開発し、「超音速弾丸の衝撃を吸収できるシンバイオ(合成生物)材料として知られる最初の例である」とリリースで述べている。
研究チームは、細胞の自然な衝撃吸収能力を担うタリンというタンパク質に着目した。
「この分子には、張力下で開き、張力が低下すると再び折り畳まれる一連のバイナリースイッチドメインがあることがわかりました。このような力に対する応答が、タリンに分子衝撃吸収性をもたらし、大きな力の変化の影響から細胞を守っているのです。タリンを重合してTSAMを作製したところ、タリンモノマーの衝撃吸収特性が、この材料に驚くべき特性を付与していることが分かりました。」と、研究著者のBen Goult教授は説明している。
研究チームは、1.5km/sの超音速衝撃に対するテストを行い、TSAMがそれに耐えられることを確認した。参考までに、テストした数値は、「宇宙空間の粒子が自然物と人工物の両方に衝突する速度(通常1km/秒以上)や銃器の銃口速度-(通常0.4~1.0km/秒の間)よりも速い」とのことだ。
このTSAMの特性は、現状では発生する運動エネルギーを遮断することができず、結果として装甲の裏側に鈍的外傷を与えてしまう防弾ジャケットの性能を高めることに役立つと考えられる。また、TSAMは軽量化に役立ち、衝撃を受けた後も構造的完全性が比較的損なわれないため、防弾ジャケットを再利用可能にすることにも繋がりそうだ。
TSAMは宇宙開発においても重要な役割を果たす可能性
この材料は、衝突後に発射体を捕獲して保存する特性も持っているため、「さらなる科学的研究のために、スペースデブリ、宇宙塵、マイクロメテオロイドを効果的に収集できるエネルギー散逸材料が必要とされている」航空宇宙分野でも有用である。
さらなる応用として、TSAMは航空宇宙機器の設計を進める上で、発射対の衝突による温度上昇により溶けやすいと言う問題をはらんでいる業界標準のエアロゲルに代わるものとして使われる可能性がある。これは、宇宙飛行士の安全性を確保し、航空宇宙機器の寿命を延ばすことにも繋がるだろう。
「このプロジェクトは、基礎生物学、化学、材料科学の学際的な協力から生まれ、この驚くべき新種の材料の生産につながりました。私たちは、現実の問題を解決するために、TSAMの応用の可能性に非常に期待しています。防衛・航空宇宙分野の新たな協力者の支援を受けながら、積極的に研究を進めています」と、Hiscock教授は述べている。
論文
- bioRxiv: Next generation protein-based materials capture and preserve projectiles from supersonic impacts
参考文献
- University of Kent: Kent team create material that can stop supersonic impacts
- New Atlas: New protein-based armor material can withstand supersonic impacts
研究の要旨
極限エネルギー散逸材料は、さまざまな用途に不可欠なものです。軍や警察では隊員の安全を確保するために弾道装甲を必要とし、航空宇宙産業では超高速発射体の捕獲、保存、研究を可能にする材料を必要としています。しかし、現在の業界標準には、少なくとも1つの固有の限界があります。この限界を解決するために、私たちは自然界に目を向け、数千年の間に進化してきたタンパク質を利用して、効果的なエネルギー散逸を可能にしました。具体的には、機械的感受性の高いタンパク質であるタリンの組換え体をモノマーユニットに組み込んで架橋し、タリン衝撃吸収材(TSAM)の最初の報告例を作製した。秒速1.5kmの超音速の弾丸を受けたとき、TSAMは衝撃を吸収するだけでなく、弾丸を捕獲・保存することが示され、TSAMはこれを実現した最初のタンパク質材料として報告されている。
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