ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)は、これまでに作られた天文台の中で最も強力で洗練されたものだ。しかし、その複雑な設計と厳しい試験により、最も高価な望遠鏡でもある。NASAのエンジニアは、望遠鏡がペイロードフェアリングに収まるように、JWSTを折り畳み式に設計し、宇宙空間に到達したら展開するようにした。そのため、天文学者や天体物理学者は、完璧な形状を維持し、ロケット内にコンパクトに収まるように折り畳むことができる柔軟で軽量な材料の開発を希望しているのだ。
これにより、宇宙望遠鏡のサイズや質量、設計の複雑さを軽減し、打ち上げ費用を削減できる可能性がある。COVIDの流行期間中、マックス・プランク地球外物理学研究所(MPE)の研究者は、高品質の放物面鏡を製造・成形する新しい方法を開発した。これまでにMPEチームは、従来のミラーよりもはるかに薄く柔軟な、直径30cmまでのプロトタイプを作製している。長期的には、この方法によって宇宙望遠鏡の製造と配備のコストを大幅に削減することが出来るのだ。
この方法は、化学気相成長法(CVD)という新しい技術を利用したもので、一般的に材料にコーティングを施すのに使われる。近年、CVDは、グラフェンリボン、小型原子力電池、ダイヤモンドなどの超材料の製造にも大きな可能性を示している。Sebastian Rabien博士は、MPEの同僚とともに、モノマー分子を真空チャンバー内に堆積させ、そこで結合してポリマーを形成するCVD法を応用した。
このプロセスの鍵は、液体が入った容器が回転することで、液体が放物線を描き、膜を形成するための「型」となる点だ。ポリマーが十分に厚くなったら、その上に反射性の金属コーティングを重ね、液体を除去する。この工程を経て、天文学に必要な光学特性を持つ放物面鏡が作られたのは初めてのことだ。また、この方法は費用対効果が高く、直径数メートル(数十フィート)のレンズを作るために簡単にスケールアップすることができる。
彼らが作成したプロトタイプは、この方法の実現可能性を実証し、より大型で梱包可能なミラーの製造に向けた基礎を築いたの。赤外線天文学の専門家であるラビエン博士は、最近のMPEプレスリリースで次のように語っている:
“宇宙望遠鏡の打ち上げと配備は、複雑でコストのかかる手順です。この新しいアプローチは、一般的な鏡の製造や研磨の手順とは全く異なるもので、望遠鏡の鏡の重量やパッケージングの問題を解決するのに役立つかもしれません…通常よりも安価な、より大きなパッカブルミラーシステムへの土台を築くことになります。”
この技術で作られた薄くて軽い鏡は、簡単に折りたたんだり丸めたりして、ロケットの上に乗せて打ち上げることができる。宇宙で展開した後も鏡が放物線を描くようにするため、研究チームは空間的に変化する光の投射を利用した適応的形状制御を開発した。この技術を鏡に適用すると、局所的な温度変化が起こり、鏡が曲がって正しい形状になるのだ。この技術は、宇宙望遠鏡だけでなく、地球上の次世代天文台にも応用できる可能性がある。
今後数年間で、直径30メートルの主鏡を持つ天文台がいくつか稼働する予定だ。ESOの超大型望遠鏡(ELT)、巨大マゼラン望遠鏡(GMT)、30m望遠鏡(TMT)などである。これらの天文台では、大気の干渉を補正するために鏡の形状を調整する「補償光学(AO)」が採用される予定だ。この新しい技術は、軽量で柔軟性があり、製造コストが安い超大型ミラーの製造に利用される可能性がある。
研究チームの次のステップは、より高度な適応制御システムを開発し、メートルサイズの蒸着チャンバーを作ることだ。これにより、プロトタイプのスケールアップが可能になり、最終的な表面の形状や、ミラーの初期歪みをどの程度許容できるかをテストする手段が提供される。また、より大きな試作品によって、大規模な主鏡の表面構造や、主鏡がどの程度展開できるかを研究することが出来るのだ。
この記事は、MATT WILLIAMS氏によって執筆され、Universe Todayに掲載されたものを、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際)に則り、翻訳・転載したものです。元記事はこちらからお読み頂けます。
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