現在の宇宙論的モデルでは、小さなバクテリアから大きな銀河系まで、全ては最後に死に絶え、いずれは宇宙そのものも終わりを迎えるとされている。
しかしもし、私たちの宇宙が冷たい死ではなく、巨大な宇宙の肺のように、崩壊し、再膨張し、また崩壊するということを繰り返しているのではないかと言う説もあり、一部の研究者によって研究が続けられている。
今回、ニューヨーク州立大学バッファロー校の研究者たちによって、このビッグバウンス仮説について、この仮説に新たな制限がある事が示された。
- 論文
- Journal of Cosmology and Astroparticle Physics : Cyclic cosmology and geodesic completeness
- 参考文献
- University ato Buffalo : Do ‘bouncing universes’ have a beginning?
「人々は、宇宙を過去に無限大にするために、バウンス宇宙を提案しましたが、我々が示したのは、これらのモデルの最新のタイプの1つがうまくいかないということです。エントロピーの問題に対処したこの新しいタイプのモデルでは、たとえ宇宙がサイクルを持っていたとしても、それはまだ始まりを持っていなければならないのです。」と、ニューヨーク州立大学バッファロー校の物理学者Will Kinney氏は語っている。
現在、最も受け入れられている宇宙のモデルは、宇宙が特異点と呼ばれる起点から出現すると考えられている。約138億年前、私たちが知っている宇宙は、何らかの理由で、ありえないほど密度の高い時空間から膨張し始めたというのだ。ただし、残念ながら、「ビッグバン」説を支持するモデルは、この“特異点”がどのようなものであるかについてほとんど語っていない。
ビッグバウンス仮説は、この特異点を完全に排除することによって、特異点の問題を回避することができる。崩壊しつつある宇宙は、そのような特異点に到達する前にリバウンドしてしまうというのだ。
しかし、この仮説にも問題がないわけではない。無限に「跳ね返る」宇宙は、宇宙の無秩序さを表すエントロピーも無限に増大するはずだ。もし、ビッグバンが永遠に続く一連のビッグバンの一つに過ぎないのであれば、エントロピーは本当に大きくなるはずだ。実際、もしビッグバンの時点で宇宙が高いエントロピーを持っていたとしたら、私たちが知っているような宇宙は存在し得ないことになる。
2019年、数十年にわたって仮説を阻んできたこの重大なハードルに対する解決策を含む修正モデルが発表され、ビッグバウンス仮説は息を吹き返した。研究者たちは、サイクルのたびに宇宙が膨張することでエントロピーが十分に希釈され、次のバウンスの前に宇宙が元の状態に戻ることを数式で証明したのだ。
この発見は、ビッグバウンスを宇宙論的なモデルとして、再び議論のテーブルに乗せることができるように思えるほど、大きな出来事だった。しかし、今回、この修正モデルに新たな穴が開けられたというわけだ。
Kinney氏と彼の同僚で同じくニューヨーク州立大学バッファロー校の物理学者であるNina Stein氏は一連の計算を行い、周期的な宇宙は過去に無限に広がることはできないことを突き止めた。
「手短に言えば、エントロピー問題を解決する際に、宇宙が始まりを持たなければならない状況を作り出すことを示したのです。我々の証明は、膨張によってエントロピーを除去するどんな循環モデルも、始まりを持たなければならないことを一般的に示しています。」と、Kinney氏は説明する。
とはいえ、このことで即座に周期的宇宙が否定されるわけではない。研究チームは、彼らの研究が、物理学者Roger Penroseの共形サイクリック宇宙論と呼ばれるサイクリック宇宙論には当てはまらないことに注目している。Penroseが提唱する宇宙論によれば、周期は無限に拡大し、収縮の周期はない。これはかなり複雑なことで、さらに突き詰めていく必要がありそうだ。
しかし、今のところ、ビッグバウンス説が成立するためには、少なくとも、もう少し考えることが多そうだ。
「その前に何もない、時間もない時点があったという考えは、私たちを悩ませ、その前に何があったのかを知りたがります。科学者も含めて。しかし、私たちが知る限り、『始まり』である“ポイント”はあったに違いありません。ただし、そのポイントには、『その前に何があったのか』という質問に対する答えがないのです。」
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