今回、人類の歴史上初めて、人為的に生成されたニュートリノを検出することに成功した事が報告された。このニュートリノは、CERNの大型ハドロン衝突型加速器(LHC)の実験によって引き起こされた核反応によって生成されたもので、これの検出は、粒子加速器の歴史における長年の目標の1つでもあった。
研究者らは、LHCによって光速近くまで加速された粒子同士が衝突する際の反応でニュートリノが生成されることは理論的な確証を持っていたが、これを捕捉することは困難を極めた。ニュートリノは宇宙で最も多く存在する粒子のひとつだが、このさまよえる宇宙粒子が従来の物質と相互作用する可能性は極めて低く、検出自体が困難だったからだ。今回の成果は、素粒子物理学者が素粒子の挙動に関する未知の問題を解決するのに役立つだろう。
幽霊粒子「ニュートリノ」を捉える2つの実験
1930年代、物理学者たちは、多くの核反応の生成物が、反応に先立つ粒子よりも少ないエネルギーしか持っていないように見えることに気づいた。これはエネルギー保存の法則に反しており、明らかな説明は、我々が見逃している付加的な生成物があるということだった。そのような粒子はニュートリノと名付けられ、非常に軽く、長い間質量がないと考えられていた。そうでなければ、ニュートリノを見つけるのはもっと簡単だっただろう。
純粋に問題を解決するために発明された検出不可能な物体という考え方に軽蔑の声もあったが、ニュートリノは1956年に原子炉から飛来していることが確認され、この発見はノーベル賞を受賞した。それ以来、ニュートリノは太陽、宇宙線と大気圏上層部との相互作用、超新星のような高エネルギーの天文現象から発生していることが発見されている。
実験に参加した研究者Cristovao Vilela氏は、「LHCのような陽子衝突型加速器では、ニュートリノが大量に生成されます。しかし、これまでこれらのニュートリノが直接観測されたことはありませんでした。ニュートリノは他の粒子との相互作用が非常に弱いため、その検出は非常に困難であり、そのため素粒子物理学の標準模型の中で最もよく研究されていない粒子なのです」と、Phys.orgに語る。これらのニュートリノはこれまで直接観測されたことはなかったが、今回、FASER(Forward Search Experiment)とSND(Scattering and Neutrino Detector)@LHCとして知られる実験は、2つの異なるアプローチを採用することで観測に成功した。
2つのチームはニュートリノ捕獲に対して異なるアプローチをとった。FASERの共同チームは検出器をビームラインに沿って設置し、最もエネルギーの高いニュートリノ、つまり粒子と同じような経路を進むニュートリノが検出器を通過するようにした。それでも観測は難しいが、高エネルギーニュートリノは低エネルギーニュートリノよりも他の物質と反応しやすい。
FASER検出器は、厚さ1.1mm(0.044インチ)の730枚のタングステンで構成され、間に乳剤フィルムが挟まれている。チームは、5ヶ月間の観測で、2000億電子ボルト以上のエネルギーで、バックグラウンド・レベルを上回る153個の検出が確認された。
一方、SND@LHCは検出器を片側に寄せ、わずか8つの候補事象を観測しただけだった。両チームとも検出器を100メートルの岩とコンクリートで遮蔽し、反応で生成される他の粒子のほとんどを遮断した。ニュートリノは質量と相互作用する可能性が低いため、無傷で通過した。それにもかかわらず、SND@LHC検出器はニュートリノ1個につき数千万個のミューオンを拾い上げ、非常によく似たシグナルを発したとVilela氏は説明した。
LHCの科学者たちは、FASER実験をさらに何年も続け、「少なくとも」10倍以上のデータを収集する予定である。FASER検出器はまだフル稼働していないが、今後数年間で、高エネルギーニュートリノ反応に関する “絶妙な詳細”が得られるだろう。さらにCERNは、LHCの敷地内に建設された新しい地下空洞を、ニュートリノ相互作用やダークマターに関連するその他の現象を「数百万個」検出するためだけに探索している。
論文
- Physical Review Letters:
参考文献
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