120億年前の銀河の周りに暗黒物質の分布を確認 – これまでの宇宙モデルを覆す可能性

masapoco
投稿日 2022年8月4日 11:39
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宇宙が出来てから17億年程度という初期に存在した銀河の周りに暗黒物質が存在することが発見された。これは、宇宙を支配するこの謎の物質としては、これまでに見つかった物で最も古い物となる。


この発見は、東京大学宇宙線研究所の播金 優一 助教と大内 正己 教授を中心とする研究グループの共同研究によってもたらされたもので、初期宇宙に存在する暗黒物質が、現在の多くの宇宙論モデルで予測されているよりも「塊状」でないことを示唆している。さらに研究が進み、この理論が確認されれば、銀河の進化に関する科学者の理解が変わり、宇宙が誕生してからわずか17億年前の時代には、宇宙を支配する基本法則が異なっていた可能性が示唆されている。

宇宙初期に暗黒物質が存在したことを示す鍵は、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)

「遠くの銀河の周りにある暗黒物質を見てください。あれはとんでもないアイデアでした。誰もこんなことができるとは思わなかった。」と、東京大学の大内正己教授は声明の中で述べている。「しかし、私が大規模な遠方銀河のサンプルについて講演した後、宮武さんが私のところに来て、CMB(宇宙マイクロ波背景放射でこれらの銀河の周りの暗黒物質を見ることができるかもしれないと言ったのです。」

光がいくら速く移動できるとは言っても、その速度は有限であり、宇宙の巨大な空間を移動するには、光ですらも気の遠くなるような時間がかかる。実際、遠くの天体から地球までの移動では、近くの銀河ですら、光が届くまでには230万年もかかるのだ。だが、このことは逆に、我々に届く光を観測することで、過去をのぞき見ることを可能にしている。そのため、私たちは最も遠い銀河を、数十億年前の宇宙の初期の状態を観察することが可能なのだ。

暗黒物質の観測は、さらに難しい。暗黒物質とは、宇宙全体の質量の約85%を占める謎の物質だ。星や惑星、私たちを満たしている陽子と中性子でできた日常的な物質のように、物質や光と相互作用することがないのだ。

暗黒物質を「見る」ためには、重力との相互作用に頼らざるを得ない。

アインシュタインの相対性理論によると、巨大な質量をもつ物体は時空の湾曲を引き起こすとされている。よく例えられるのは、ベッドシーツに、重い球を乗せるイメージだ。球の質量が大きくなればなるほど、シートに生じる「へこみ」は大きくなる。同様に、宇宙でも天体の質量が大きければ大きいほど、時空が極端にゆがむのだ。

銀河のような巨大な天体は、時空を強く湾曲させるので、銀河の背後にある光源からの光は、伸びたベッドシーツの上を転がる際に、ビー玉の軌道がずれるように、湾曲してしまうのだ。この効果により、光源の位置がずれることを重力レンズ効果という。

銀河内の暗黒物質の分布を調べるために、天文学者は、その銀河の背後にある光源からの光が「レンズとなる銀河」を通過する際にどのように変化するかを観測することができる。レンズとなる銀河が暗黒物質を多く含むほど、それを通過する光の歪みが大きくなるのだ。

しかし、この技術には限界がある。

最も古い銀河や最も遠い銀河は非常に暗いため、天文学者が宇宙の奥深く、さらに過去にさかのぼるにつれて、重力レンズ効果は弱くなり、天体が見えにくくなる。科学者は暗黒物質によるレンズ効果を発見するために多くの背景光源と多くの初期銀河の両方を必要とする。このため、暗黒物質の分布を調べるには、約80億年から100億年前の銀河に限られていた。

しかし、CMBはどの銀河よりも古い時代の光源を提供する。CMBは、宇宙が十分に冷えて原子が形成され、宇宙論者が「宇宙の晴れ上がり」と呼ぶ瞬間に、光子を散乱する自由電子の数が減少したときにできた、どこにでもある放射線である。自由電子の減少により、光子は自由に移動できるようになり、宇宙が突然不透明でなくなり、光に対して透明になったことを意味する。

また、他の遠方からの光と同様に、CMBは暗黒物質を持つ銀河によって重力レンズ効果で歪むことがある。

東京大学の播金 優一助教授は、「ほとんどの研究者は、現在から80億年前までの暗黒物質分布を測定するために、源となる銀河を利用しています。しかし、我々はより遠いCMBを使って暗黒物質を測定したため、さらに過去にさかのぼることができました。」と声明で述べている。

研究チームは、古代の銀河の大きなサンプルのレンズ歪みをCMBのそれと組み合わせて、宇宙がわずか17億歳の頃に遡る暗黒物質を検出した。そして、驚くことにこの古代の暗黒物質は、まったく異なる宇宙像を描き出していたのだ。

「初めて、私たちは宇宙のほとんど初期の瞬間から暗黒物質を測定しました。120億年前、状況は大きく変わっていました。現在よりも多くの銀河が形成過程にあり、最初の銀河団が形成され始めていることがわかります。これらの銀河団は、重力によって大量の暗黒物質と結合した100から1000個の銀河で構成されている可能性があります。」と播金氏は述べている。

暗黒物質は塊状なのか?

今回の発見で最も重要なことのひとつは、宇宙初期において暗黒物質が、現在の多くのモデルで示唆されているよりも、あまり塊状になっていない可能性があるということだ。

例えば、広く受け入れられているΛ-CDMモデル(ラムダCDMモデル)は、CMBの小さな揺らぎが、重力によって物質の密集したポケットを作り出すはずだと示唆している。このゆらぎが、やがて物質を崩壊させて銀河や星、惑星を形成し、暗黒物質が密集したポケットを作るはずなのだ。

「私たちの発見はまだ不確かです。しかし、もしそれが本当なら、過去にさかのぼればさかのぼるほど、モデル全体に欠陥があることを示唆することになります。不確実性を減らした後でもこの結果が成り立つなら、暗黒物質そのものの性質に迫るようなモデルの改良を示唆する可能性があるので、これはエキサイティングなことです。」

研究チームは、Λ-CDMモデルが、初期宇宙における暗黒物質の観測結果と合致しているかどうか、あるいは、モデルの背後にある仮定を修正する必要があるかどうかを評価するために、引き続きデータを収集する予定だ。

今回、研究チームが使用したデータは、ハワイにある望遠鏡のデータを解析する「すばるハイパー・スプリーム・カム・サーベイ」によるものだ。しかし、研究者らはこのデータの3分の1しか使っていない。つまり、残りの観測データを組み込めば、より良い暗黒物質分布図が得られる可能性があるということになる。

さらに研究チームは、ヴェラ・C・ルービン天文台の「時空間レガシーサーベイ(LSST)」のデータも期待しており、これによりさらに過去に遡って暗黒物質を見ることができるようになるかもしれない。

宇宙マイクロ波背景放射については、以下の記事で詳しく簡単に解説しているので、よろしければご一読頂きたい。



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