絶対零度(摂氏-273.15度)は、理論的に到達可能な最低温度である。しかし、この温度に完全に冷却することは不可能だ。これは熱力学の第三法則で有名な話だが、このたび、オーストリアのウィーン工科大学の研究チームが、物体を絶対零度まで冷却する方法を発見したという。
熱力学第三法則の結果として、粒子群から熱エネルギーを少しずつ取り除いて絶対零度まで冷やすには、必ず無限のステップを踏むことになる。そのため、達成するためには無限のエネルギーが必要になる。
古典物理学では、これが不可能である事は明白であるが、量子物理学の文脈で見ると、この問題は少し違って見えるようになる。
熱力学の第三法則は、古典的なシステムや物体を対象として定式化されており、量子システムについては説明できないのだ。現在に至っても、量子力学と熱力学の相互作用は十分に理解されておらず、この理解こそが研究者たちの発見につながった。
量子物理学では、粒子をさまざまな可能性に基づいて記述する。ある特徴が測定されて初めて、その粒子は具体的な状態を持つようになる。そして、その場合でも、粒子の他の性質は少し不確かなものになる。理論上の絶対零度にある粒子には動きがなく、その位置は確実だ。しかし、それ以前の位置に関する量子的な詳細は、事実上消去され、情報は削除される。
情報理論におけるランダウアーの原理によれば、1ビットの情報を削除するためには最小かつ有限のエネルギーが必要である。一方、熱力学の法則では、システムや物体を絶対零度まで冷却するためには、無限のエネルギーが必要であるとされている。ここで問題なのは、どちらも同じ意味であるということだ。
絶対零度を達成するためには、必ずしも無限のエネルギーが必要なわけではなく、有限のエネルギーで無限の時間をかけて絶対零度を達成することも可能だ。そこで研究チームは、複雑さという隠れたパラメーターを発見した。
量子系のような無限に複雑な系を完全に無限に制御できれば、有限のエネルギーで物体を有限の時間で絶対零度まで冷却できることを発見したのだ。
複雑性の役割という新たな発見が、絶対零度への道筋を探る上で新たな切り口を提示している。だが現実には、無限を相手にしているため、事実上これは不可能だ。
今回の研究結果は、実用的な量子コンピュータの根本的な問題を浮き彫りにしている。理論的には、無限に複雑な量子コンピュータがあれば、量子ビットに格納されたデータを消去することが出来る。
現実には、こんなことはありえない。完璧な機械はない。うまく機能する量子コンピュータを作ることは可能だが、無限に複雑にすることは出来ない。このことは、量子コンピュータのもう一つの問題点である、高温での不安定性につながっている。
量子コンピュータは一般に、温度が高くなるとノイズによって量子状態が破壊され、利用が不安定になる。これらの問題はいずれも、量子熱力学の分野でさらなる研究が必要であることを強調している。将来、より優れた量子技術を理解し、実現するためには、その基礎となる原理が必要なのだ。
論文
参考文献
- TU Wien: Absolute Zero in the Quantum Computer
- via ScienceAlert: Physicists Discovered a Quantum Trick For Reaching Absolute Zero
研究の要旨
熱力学は、世界に関する知識と、それを操作する能力、つまり制御する能力を結びつけるものだ。この制御の重要な役割は、熱力学の第3法則である「ネルンストの達成不可能性の原理」に代表される。この原理では、あるシステムを絶対零度まで冷却するには、無限の資源が必要であるとされている。しかし、この資源とは何なのか、どのように活用すべきなのか。また、情報と熱力学を結びつけることで有名なランダウアーの原理とどのような関係があるのだろうか?我々は、純粋な量子状態の創出を可能にする資源を特定するための枠組みを提供することで、これらの疑問に答える。我々は、無限の時間や制御の複雑さが与えられた場合、ランダウアーのエネルギーコストで完全な冷却が可能であることを示す。しかし、このような最適なプロトコルは、外部の作業源によって生成された複雑なユニタリーを必要とする。熱機関のみで動作するユニタリーに限定して、新しいカルノー-ランダウアー限界と、その飽和のためのプロトコルを導出する。これにより、ランダウアーの原理を完全に熱力学的な設定に一般化し、第三法則との統一を導き、量子熱力学における制御の重要性を強調する。
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