Googleの親会社「Alphabet」は、6年前に自社内で立ち上げた量子テクノロジーグループ、「SandboxAQ」をスピンアウトして独立した会社にすると発表した。
SandboxAQの元AI・量子担当ディレクターで、長年Xプライズの役員を務めてきたJack Hidary氏が、引き続き新会社を率いる。また、元Alphabet会長兼CEOのEric Schmidt氏を初めとする、著名な人物を役員として迎えている。
この会社は、通信、金融サービス、ヘルスケア、政府、コンピュータセキュリティ、その他の分野向けの商用製品を開発しているエンタープライズSaaS企業としてその活動を行っていく。
SandboxAQは既に「9桁米ドル(数百億円規模)」の未公表の資金を投入しているようだ。
AlphabetがSandboxAQのスピンアウトを決定したのは、市場の需要が急増していることが一因のようだ。Gartnerによると、2018年には1%未満だった量子コンピューティングプロジェクトの予算が、来年には世界の組織の20%になると予想されている。
そしてすでにSandboxAQの顧客には、Vodafone Business、Softbank Mobile、Mount Sinai Health Systemなどが名を連ねている。
しかし、量子関連技術への関心が高まっているさらに大きな要因は、“真の”量子コンピュータ(量子ゲートを用いて、特定の問題の処理のみにしばられず、現在のコンピューターを置き換えるような量子コンピュータ。“万能量子コンピュータ”と言われる)の実現は、10年以上先の話かもしれないが、いわゆる量子センシング技術などの他の関連技術は、急速に現実化しつつある事が背景としてあるのだろう。
実際、SandboxAQは量子コンピュータの開発よりも、量子技術とAIの融合に注力しており、特にサイバーセキュリティ・プラットフォームを強化するアプリケーションを開発している。同社自身の言葉を借りれば、「量子コンピュータを必要とせず…今日の高性能コンピュータを使って、近いうちに商用化できる量子物理学と技術の側面がたくさんある 」との事だ。その結果、「量子シミュレーションは、金融サービスやヘルスケア、航空宇宙、製造、通信、材料科学など、幅広い産業分野において、現実のビジネスや科学の課題に取り組むことができます。」としている。
SandboxAQに投資を行っているBreyer Capitalの創業者であるJim Breyer氏は、「量子関連企業には、国家安全保障上の大きなチャンスがある。しかし、私が今日、投資の観点から本当に期待しているのは、必ずしも超大型資本集約型の量子コンピュータではなく、量子センシングのような分野だ」と語っている。
「医療に応用できる1000倍の超高倍率光学顕微鏡を考えてみてください」と、Breyer氏は説明している。「今日、米国の大病院で試験的に導入されている量子センシング技術は、心臓病学や創薬などの分野に革命を起こすと思います」
実際、Breyer氏は、量子コンピューティング・プラットフォームは、最終的には病気の早期発見やセキュリティシステムの改善、あらゆるデータの保護に役立つ役割を果たすだろうが、それらのシステムの一部を攻撃するために使われる可能性もあると指摘する。「だからこそ、政府や企業を含む大規模組織は、もはや巨大量子コンピューターの到来を待っていない、いや、待つべきでは無いのだ」と、彼は語っている。
「現在、量子テクノロジーは、4〜5年後の量子コンピューティングのブレイクポイントには達していませんが、非常に大きな変化をもたらしています」と彼は続ける。Sandboxのチームは、その先頭を走っているチームのひとつであると、彼はそのとき示唆している。
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