スタンフォード大学とMITの研究者らが、生成AIツールが会社の生産性に与える影響を1年間にわたって検証した研究によると、Fortune 500のソフトウェア企業において、生成AIツールがカスタマーサービスワーカーの生産性を平均14%向上させることが判明したとのことだ。
この研究は、生成AIツールが仕事に与える影響を研究室の外で測定した初めての例となる。
スタンフォード人間中心AI研究所のデジタルエコノミーラボのディレクターであるErik Brynjolfsson氏は、「この会社で1年以上使ってもらうことで、それが現実の生産性にどう反映されるか、よりよく理解できるようになりました」とインタビューに答えている。
ChatGPTやGoogle Bardのような生成AIプラットフォームはここ数ヶ月で大流行し、世界中の企業がコーディングやコンテンツ作成などのタスクを実行するためにこの技術を使用している。この技術は明らかに有用だが、従業員の仕事遂行を支援する効果を測定する研究はまだ行われていなかった。
しかし、11月から稼働したばかりにもかかわらず、生成AIプラットフォームを活用する企業では、労働者の生産性が14%も向上したという。
Brynjolfsson氏は、MITの研究者Danielle Li氏、Lindsey Raymond氏とともに、主にフィリピンに本拠を置くエンタープライズソフトウェア会社の5,179人のカスタマーサポートのパフォーマンスを追跡し、顧客の問題をどれだけ早く、うまく解決できたかといった主要な指標について調査した。対象者は、AIツール(カスタマーサービスの成功事例をもとに開発されたもの)にアクセス出来るグループと、そうでないグループの二つに分けられ、それぞれのパフォーマンスを比較した。
AIツールを用いることで、従業員はチャット対応時間の短縮、時間あたりのチャット解決率の向上、顧客満足度の向上に加え、AIツールは従業員に対して、顧客のチャットへの対応方法をリアルタイムで提案することができた。
また結果として、顧客からマネージャーへの問題のエスカレーション要求が減少し、AIが生成したレコメンデーションへのアクセスにより、新規採用者やスキルの低い労働者の問題解決と顧客満足度が大幅に上昇した。AIツールの導入により、解決率は6.5%、時間あたりの解決率は13.8%増加したという。
研究者らは、AIツール導入の成果について次のように述べている:
“この増加は、生産性の3つの要素、すなわち、エージェントが個々のチャットを処理するのにかかる時間の減少、エージェントが1時間当たりに処理できるチャットの数の増加(エージェントは複数のコールを同時に処理できる)、および正常に解決したチャットのシェアの小さな増加の変化を反映しています。”
その上、この研究では、生成AIが初心者や低スキルの従業員に対して大きな生産性向上をもたらしたと説明している。逆に、生成AIは、元々スキルが高い従業員に対しては大きな影響を与えなかったという。これは、AIツールと同じスピードと正確さで顧客の質問に答えられたからだろう。
これらのツールが職場に導入される際には、成績優秀者のデータを使ってトレーニングされるため、そうした知見を活かすことも出来ると言う。
「AIによるレコメンデーションは、高スキル労働者の会話パターンを符号化し、他の労働者に広めることによって、高スキル労働者の限界生産性を拡大していると考えることができます」と、研究者は論文に書いている。
本研究は、生成AIが職場に与える影響を理解する上で重要な一歩となるが、研究者は論文の中で、まだ学ぶべきことは多く、さらなる研究が必要であると指摘し、現実世界でのテストと実験室でのテストの違いも認めている。
論文
- National Bureau of Economic Research: Generative AI at Work (PDF)
参考文献
研究の要旨
5,179人のカスタマーサポートエージェントのデータを用いて、生成的なAIベースの会話型アシスタントの時差導入について研究している。このツールを利用することで、1時間あたりの問題解決数で測定した生産性が平均14%向上し、初心者や低スキルの労働者に最も大きな影響を与え、経験豊富で高スキルの労働者には最小限の影響しか与えなかった。AIモデルは、より有能な労働者の潜在的な暗黙知を普及させ、新人労働者が経験曲線を下るのを助けるという示唆的な証拠を提供する。さらに、AIによる支援は、顧客感情を改善し、経営介入の要請を減らし、従業員の定着率を向上させることを示す。
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