光が“時間の隙間”を通り抜けることが画期的な実験により発見された

masapoco
投稿日
2023年4月4日 5:28

光が波と粒子の両方の性質を持つことは有名な話だ。これは、1801年、Thomas Youngの有名な二重スリット実験が、光の波動性を明確に示した事で証明された。光は2つの狭いスリットを通過するとき、相互作用によって回折パターンが形成される。科学者たちは、この二重スリットが空間ではなく時間で発生した場合、同じことが起こるのではないかと長い間考えていた。そして今回、ついにそのことが証明されたのだ。これは、超強力な量子コンピュータに応用できるフォトニック時間結晶(光で時間のパターンを作り出すもの)など、光を制御する新しい珍しい方法につながる可能性があるという。

この二重スリット実験の時間バージョンの成功は簡単な物ではなかった。研究者らは、スマートフォンのディスプレイ製造によく使われる半導体である、酸化インジウムスズを用いた。この材料は、レーザーパルスを照射すると、一瞬だけ鏡になる性質を持つ。二重スリット実験の古典的なバージョンでは、物理的な障壁に2つの開口部を設けて光を通過させるが、この新しい装置では、光に対する反射率を切り替えることができた。そこで、2つの波長の光をタイミングよく連続して照射することで、時間軸上の二重スリット(研究者らは“タイムスリット”と呼んでいる)を作り出したのだ。

酸化インジウムスズは、予想以上に早く反応し、研究チームを驚かせた。このタイムスリットは、わずか数フェムト秒、つまり10-15秒の間隔で作られた。「ビッグバンからこれを読んでいる瞬間までの宇宙の全歴史が1秒だとすると、光の振動は1日に相当する時間しかかかりません」と、研究主幹であるインペリアル・カレッジ・ロンドンの物理学者Romain Tirole氏はInverseに語っている。

実験の空間バージョンでは、干渉パターンは光の角度プロファイルに作成される。時間バージョンでは、干渉は光の周波数に影響を与え、文字通り色を変化させる。Tirole氏は、このパターンについて、「検出器にはっきりと映し出されたので、とても驚きました」と語っている。

研究者たちが検出したこの回折の証拠は、予想よりもはるかに強かった。このことから、酸化インジウムスズのスイッチング速度は、「これまで考えられていたよりも10倍から100倍速く、光をより強力に制御できる」とTirole氏は言う。このことは、この材料と光との相互作用について、「まだ解明されていない、利用されていない新しい特徴があることを示唆しています」とのことだ。

この成果は真新しいものだが、研究チームはすでに、この技術を使ったデータエンコードや時間結晶の採用など、応用の可能性を考えている。時間結晶とは、空間ではなく時間でパターンが繰り返される仕組みのことだ。

フォトニック時間結晶は、「光の増幅や光の制御、例えば、計算や、もしかしたら光による量子計算など、非常に重要な用途に使えるかもしれません」とTirole氏は言う。

「今回の実験により、光の基本的な性質がより明らかになるとともに、光を空間的にも時間的にも細かく制御できる究極の材料を作るための足がかりとなりました」と、主任研究者のRiccardo Sapienza教授は声明を発表している。

今回の実験で用いられた酸化インジウムスズは、自然界に存在しない特性を持つように設計されたメタマテリアルである。このような光の微細な制御は、メタマテリアルで実現できる事のひとつであり、空間制御と組み合わせることで、新しい技術や、ブラックホールなどの基礎物理現象を研究するための類似物質を生み出す可能性もある。


論文

参考文献

研究の要旨

光の波動性は、物理的構造からの回折によって明らかにされる。我々は、古典的なヤングの二重スリット実験の時間領域バージョンを報告する:時間的に2回ゲートされた光ビームは、周波数スペクトルの干渉を生成する。光周波数で回折を起こすのに十分な幅の「時間スリット」は、高出力赤外線パルスを照射した酸化インジウムスズの薄膜から生成され、高速の反射率上昇とそれに続く低速の減衰を誘発する。タイムスリットの間隔が周波数スペクトルの振動の周期を決定し、周波数によるフリンジの見え方の減衰がタイムスリットの形状を明らかにする。その結果、既存の理論から予想されるよりも多くの振動が観測され、前縁の立ち上がり時間が約1-10fs、光周期が4.4fsに近づいていることが分かった。これはポンプの幅よりも1桁以上速く、周波数振動の減衰から推測することができる。



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