気体や液体を通さない弾力性のある素材が開発された

masapoco
投稿日
2023年2月8日 19:50
Dickey metal bag 2023 1500

国際研究チームは、液体金属を使って気体も液体も通さない弾性体を作る技術を開発した。用途としては、フレキシブル電池のように気体から保護する必要がある高価値の技術のパッケージとして使用することが出来ると言う。

「長い間、弾性と気体への不浸透性はトレードオフの関係にありましたから、これは重要なステップです。」と、『Science』誌に掲載された論文「Liquid metal-based soft, hermetic, and wireless-communicable seals for stretchable systems」の共同執筆者であるMichael Dickey氏は述べている。

「基本的に、気体を遮断するのに適したものは、硬くて固い傾向があります。そして、弾力性のあるものは、気体を透過させてしまうのです。私たちは、ガスを通さないようにしながら、望ましい弾力性を提供するものを考え出したのです。」と、Dickey氏は付け加える。

今回開発されたのは、室温で液体であるガリウムとインジウムの共晶合金(EGaIn)を利用した技術である。国際研究チームは、EGaInの薄膜を作成し、それを弾性ポリマーで包んだ。ポリマーの内面には、マイクロスケールのガラスビーズが敷き詰められており、EGaInの液膜が溜まるのを防いでいる。その結果、気体や液体の出入りを許さない、液体金属で覆われた鞘が完成した。

研究チームは、この材料の有効性を調べるため、時間とともに液体金属が蒸発するかどうか、また、このポリマーでできた密閉容器から酸素が抜けるかどうかを測定した。いずれの場合も、液体や気体の損失は検出されず、効果的なバリアであることが示された。

さらに詳細な実験では、このポリマーが、バッテリーや熱伝導システムなどの伸縮自在の電子デバイスの密閉シールとしてどの程度機能するかが検証された。この実験でも、ポリマーは両デバイスの役割を十分に果たし、バッテリーは500サイクル以上にわたって高い容量を維持し、熱伝導システムは熱伝導率を向上させることができたという。

最後に、ポリマーに信号伝達用の窓を付け、無線通信を通すのにも使えることを実証した。これらの実験を総合すると、柔軟で非透過性の素材は、さまざまな用途に応用できる可能性があることがわかる。

上海交通大学の研究者であるTao Deng氏は、「新材料では、液体や酸素の損失が測定不能であることがわかりました」と述べている。

研究者たちは、新材料の製造にかかるコストにも気を配っている。

「液体金属そのものはかなり高価です。しかし、EGaIn膜を薄くするなど、技術を最適化することで、コストを下げることができると考えています。現時点では、1つのパッケージが数ドルかかりますが、私たちはコストの最適化を試みていないので、コストを下げるための道筋はあります。」と、Deng教授は述べている。

研究者達は、現在、この材料が、これまでに示されたよりもさらに効果的なバリアであるかどうかを判断するための試験方法を探っている。

「基本的に、私たちは利用可能な試験装置の限界に達しました。」と、Dickey氏は述べている。「また、この研究の応用の可能性を探るために、産業界のパートナーも探しています。ソフトエレクトロニクスに使用するフレキシブルバッテリーはその1つですが、液体を使用したり、酸素に敏感な他のデバイスもこの技術の恩恵を受けるでしょう。」


論文

参考文献

研究の要旨

柔らかい材料は気体透過性が高く、伸縮自在の気密シールを作ることが困難である。そこで、スペーサーを用いることで、金属的性質と流体的性質を併せ持つ液体金属を伸縮自在の密閉シールとして使用することに成功した。このようなソフトシールを、水や有機流体などの揮発性流体を使用する伸縮式電池と伸縮式熱交換器の両方に使用した。電池は500サイクル後の容量保持率が〜72.5%であり、密閉型熱輸送システムは、緊張して加熱した状態で約309ワット/mkelvinの熱伝導率の向上が確認された。さらに、信号送信窓を組み込むことで、このようなシールを介した無線通信を実証した。この研究は、ソフトデバイスのための伸縮自在でかつ密閉性の高いパッケージング設計ソリューションを生み出すルートを提供するものだ。



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