Amazonは、家庭用ロボットメーカーのiRobotを17億ドル(約2,200億円)で買収するという、超大型案件を発表した。この買収は、2017年の食料品チェーン「Whole Foods」(137億ドル)、2021年の映画スタジオ「MGM」(84億5000万ドル)、そして、2022年7月の医療機関「One Medical」(39億ドル)に続き、Amazonにとって過去4番目の規模の買収となる。
ロボット技術以上に家庭内のマップデータに価値を見出した可能性
iRobot社は、コンシューマー向けロボットの世界的なリーディングカンパニーだ。同社は主にロボット掃除機「ルンバ」や床拭きロボット「ブラーバ」を製造している。
そもそもAmazon自体もロボットとは関係性が深い。同社は自社倉庫での物流業務に特化した「Amazon Robotics」部門を持っており、自社倉庫でのロボットによる自動化を推し進めている。同社は2012年に倉庫ロボット会社のKiva Systemsを、2019年にはCanvas Technologyを買収し、最近、同社初の「完全自律型」ロボット「Proteus」を発売した。”Proteus “は、産業用の巨大なRoombaのような外観をしている。掃除機をかける代わりに、このユニットは在庫カートの下を走り、配達のためにカートを少しだけ床面から持ち上げてスムーズに移動させることが出来る。倉庫内で人が動き回っている所でも自分で考えて迂回したり、待機したりして、衝突することなく人間と共存しながら働くことが可能だという。
また、Amazonは最近、家庭用ロボット “Astro“の市販を開始し、iRobotのテリトリーである家庭内に入り込む動きも見せていた。Astroは、車輪のついたAlexa/カメラ/タブレットで、家の中を移動することができる。とはいえ、販売は招待制なので、消費者向けの大々的な発表というよりは、実験に近いものだった。
今回のAmazonによる買収は、同社が家庭内で掃除ロボットを販売したいと言う単純な話ではなく、どちらかと言えばiRobotがこれまで集めた、そしてこれからも集めて行くであろうユーザーの家の中のマップ情報に価値を見出したからである可能性が高い。
ロボット掃除機は、特に最新の機種に関しては、掃除をするために自宅内のマップを作成し、家具の配置や間取りなどを把握しながら最適なルートで効率的に掃除をするようになっている。そして、それらのデータは蓄積され、どのように変化していくのかについても詳細に把握しているようだ。キッチンや子供部屋の位置、テーブルやソファがどこにあるのか、家具を買い換えたタイミングや配置を変えた情報、居室の用途を変更したこと(例えば、これまで空き部屋だったところを子供部屋にしたことなど)
こういったユーザーデータは、AmazonのようなECを主な業態とする企業にとっては、まさに喉から手が出るほど欲しい物だろう。これら間取り図と、AmazonがこれまでにEchoスピーカーなどで収集した情報を合わせれば、Amazonはユーザーのかなりの詳細な情報を把握できるはずだ。しかし、同時にプライバシーへの大きな懸念も生じる。
Amazonは、家庭内ドアベル・見守りカメラを製造・販売するRingを子会社に持っているが、最近このRingカメラが収集した映像について、警察が緊急の要件であると伝えれば裁判所命令などがなくても、ユーザーの同意なしで映像を入手できることが報じられた。また、以前からAmazonが販売しているEchoスピーカーについては、ウェイクワード(スピーカーを呼び出すために必要なかけ声。Amazonデバイスの場合は「Alexa」、Googleスピーカーの場合は「OK、Google」など)を聞くために常にマイクがオンになっており、Amazon従業員が収集したユーザー音声を直接聞いて解析を行っていることなどが問題視されたこともあった。(現在は会話データの収集はオプション設定で行わないように設定も出来る)新たなユーザーデータの取り扱いについてもAmazonには慎重な取り扱いが求められる。
プレスリリースによると、iRobotのCEOであるColin AngleはiRobotのトップとして留まり、この買収は規制当局の承認が条件となるとのことだ。
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