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MITの研究者らによって、より高性能で高密度のコンピュータチップを作るため革新的な方法が開発される

ChatGPTを初めとする、生成AIの出現により、世界はこれまで以上により強力なコンピューティング能力を必要としている。しかし、現在の半導体チップは、箱型の3次元材料で作られており、かさばるため、これを積層することが困難だった。

こうした根本的な問題に対処しようとしたのが、MITの研究者らだ。彼らは、原子3個分の厚さしかない極薄の2次元材料から作られた半導体トランジスタを積み重ねることで、より強力なチップを作成する事を試みた。そして、実際に完全に製造されたシリコンチップの上に直接、2D遷移金属ジカルコゲナイド(TMD)材料の層を効果的かつ効率的に「成長」させ、より高密度な集積を可能にする新規技術を実証した。

この2次元材料は、通常、別の場所で成長させた後、チップやウェハーに転写されるのだが、その手順が不完全であるため、トランジスタの性能が安定せず、阻害されやすいのが問題だった。

MITの研究者による学際的なチームは、科学誌『Nature Nanotechnology』に発表された論文で、完全に加工されたシリコンチップの上に、これらの2D材料の層を直接成長させることができる新しい技術の開発を明らかにした。

この新しいプロセスにより、8インチウェハー上に滑らかで均一な層を、必要な時間を大幅に短縮して形成することが可能になったという。この新しい方法は、8インチ以上のウェハーが一般的な商用アプリケーションで重要な役割を果たす可能性がある。

電気工学とコンピュータサイエンスの大学院生で、論文の共同執筆者であるJiadi Zhu氏は、この技術を簡潔に説明している。「2次元材料の使用は、集積回路の密度を高める強力な方法です。私たちがやっていることは、多層ビルを建てるようなものです。1階だけだと、あまり人が入らない。しかし、階数が増えれば、ビルはより多くの人を収容し、驚くような新しいことを可能にすることができます。私たちが取り組んでいるヘテロジニアスインテグレーションにより、シリコンを1階とし、その上に2次元材料を直接集積したフロアを何階も作ることができるのです」と彼は言う。

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二硫化モリブデン薄膜を形成した8インチCMOSウェハーを持つJiadi Zhu氏。右は研究者が開発した加熱炉。(Credit: MIT)

二硫化モリブデンは、柔軟で透明な二次元材料で、強力な電子・光特性を示すため、半導体トランジスタに最適な材料だ。

二硫化モリブデン薄膜は、一般的に有機金属化学気相成長法(MOCVD法)で成長させる。この反応は、モリブデンと硫黄化合物を摂氏550度以上の温度で分解するものである。しかし、シリコン回路は摂氏400度を超えると劣化する。

研究者らは、この劣化に対抗するため、分解プロセス用の炉を新たに設計・製作した。この炉は、シリコンウエハーが置かれる前方の低温領域と、後方の高温領域の2つのチャンバーから構成されている。そして、気化したモリブデンや硫黄化合物が炉内に送り込まれる。

モリブデンが摂氏400度以下の前面にとどまって分解するのに対し、硫黄化合物は高温の後面に流れ込んで分解する。

分解すると前面に逆流し、化学反応を起こしてウェーハ表面に二硫化モリブデンを成長させるのだ。

この工程で問題となるのは、シリコン回路は通常、プリント基板に実装する前にチップをパッケージやキャリアに接続するため、最上層にアルミニウムや銅が使用されていることだ。しかし、硫黄はこれらの金属を硫化させてしまう。酸素に触れると金属が錆びるのと同じで、導電性が損なわれてしまう。そこで研究者たちは、まずチップの上にパッシベーション材をごく薄く蒸着させ、硫化を防いだ。その後、パッシベーション層を開いて接続することができるようになった。

また、シリコンウェハーを炉の低温領域に入れる際、水平ではなく垂直に入れることにした。縦に置くことで、両端が高温領域に近づきすぎず、ウェハーの一部が熱で損傷することがない。さらに、モリブデンや硫黄のガス分子は、水平面上を流れるのではなく、垂直のチップにぶつかることで渦を巻く。この循環効果により、二硫化モリブデンの成長が良くなり、材料の均一性につながる。

より均一な層が得られるだけでなく、この方法は他のMOCVDプロセスよりもはるかに速かった。通常、MOCVDの成長プロセスには少なくとも丸一日かかるが、彼らは1時間未満で層を成長させることができた。

Zhu氏と研究チームは、この技術をさらに改良し、この層を繊維や紙のような日常的な表面に成長させるための類似のプロセスを探求している。


論文

参考文献

研究の要旨

二次元(2D)材料は、その優れた電気的・光的特性から、将来のエレクトロニクスの有力候補とされている。二硫化モリブデン(MoS2)の単層膜のウェーハスケール(直径150mm以下)での合成に関する有望な結果がすでに報告されているが、商業用シリコンファウンドリーで通常使用される200mm以上のウェーハ上での2D材料の高品質合成は依然として困難である。また、直接成長させた2次元材料をシリコンCMOS回路上にバックエンドオブライン(BEOL)集積することも、シリコンBEOL集積の限界(400℃以下)をはるかに超える高い熱予算が必要なため、実現できていない。この高温のため、2次元材料とBEOL回路の両方に欠陥や汚染が発生しやすく、困難な転写プロセスを使用せざるを得ない。本論文では、単層MoS2膜の低熱予算合成法(成長温度300℃以下、成長時間60分以下)を報告し、前駆体分解温度以下の温度で2次元材料を合成し、転写プロセスを必要とせずにシリコンCMOS回路上に直接成長することを可能にする。低温成長領域と高温のカルコゲナイド前駆体分解領域を分離するために、有機金属化学気相成長反応器を設計しました。200mmウェハー上に電気的に均一な単層MoS2が得られ、電子移動度は35.9cm2 V-1 s-1という高い材料品質も得られた。最後に、MoS2トランジスタのシリコンCMOS互換BEOL製造プロセスフローを実証した。これらのシリコンデバイスの性能は、ごくわずかな劣化(電流変動<0.5%、閾値電圧シフト<20mV)である。これは、将来のエレクトロニクスにおけるモノリシックな3次元集積に向けた重要な一歩であると確信している。

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執筆者
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masapoco

TEXAL管理人。中学生の時にWindows95を使っていたくらいの年齢。大学では物理を専攻していたこともあり、物理・宇宙関係の話題が得意だが、テクノロジー関係の話題も大好き。最近は半導体関連に特に興味あり。アニメ・ゲーム・文学も好き。最近の推しは、アニメ『サマータイムレンダ』

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