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これまでで最も重い「シュレーディンガーの猫」の作成に成功

(Credit: Yiwen Chu/ETH Zurich)

有名な思考実験「シュレーディンガーの猫」は、複雑な量子現象を視覚化することで、目に見えない世界がいかに奇妙であるかを浮き彫りにしするものだ。今回、科学者たちは、これまでで最も重いシュレーディンガーの猫を作り出し、量子物理学と古典物理学の境界を探ることに成功した。

チューリッヒ工科大学の研究者たちは、重ね合わせ状態に置かれた最も重いシステムを作成した。この結晶の重さは16マイクログラム、つまり砂粒ほどの重さだが、このマクロサイズの物質を、「シュレーディンガーの猫」で有名な量子状態に置く事に成功したのだ。

元々のシュレーディンガーの猫の思考実験では、架空の猫が箱の中に入れられる。箱の中には、量子力学の法則に従う放射性元素の崩壊によって活性化する毒の小瓶が入っている。箱を開けるまで、猫は死んでいるようで、生きているような状態である。量子力学では、量子状態が同時に2つの状態になることが可能であり、測定によってどちらかに落ち着くしかない。

今回の実験では、振動する水晶と超伝導回路を組み合わせた。ここで問題になるのは、結晶が生きているか死んでいるかではなく、”上”に振動しているか “下”に振動しているかということだ。この回路は量子ビットと呼ばれるもので、0か1か、あるいはその両方の状態を重ね合わせることができる。水晶と回路をつなぐのは圧電材料で、水晶が振動すると電界が発生する。水晶が振動すると電界が発生するので、電界を持つ回路の重ね合わせを水晶にリンクさせ、その振動を重ね合わせることができる。

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水晶の振動(左と上)が重い「シュレーディンガーの猫」の役割を果たし、原子は水晶と超伝導回路の間にある圧電体(下)で表現され、電界で両者をつないでいる。 (Credit: Yiwen Chu/ETH Zurich)

チューリッヒ工科大学のYiwen Chu教授は、「結晶の2つの振動状態を重ね合わせることで、重さ16マイクログラムのシュレーディンガー・キャットを効果的に作り出しました」と述べている。

2つの状態の隔たりは、ごくわずかだった。それはわずか10億分の1メートルで、原子よりも小さな変位だった。しかし、研究者らはそのような分離を測定することができ、状態は区別することができたのだ。

砂粒ほどの大きさであれば、それほど重いものには感じないかも知れないが、量子力学で考えると巨大なものだ。ある点を超えると量子効果が消失するように見えるのはなぜなのか、私たちは理解していない。マクロな世界では経験できないことだ。研究チームは、さらに重く、量子力学の限界をさらに追求することに興味を持っている。

「これは、本物の猫というマクロな世界で量子効果が消失する理由をよりよく理解できるようになるため、興味深いことです」と、Chu氏は付け加えている。

この重い重ね合わせは、通常、量子ビットが単一の原子で作られている量子コンピュータに応用できるかも知れない。また、このような高感度な結晶は、重力波のような宇宙的な事象を検出するのにも利用できる可能性もあるだろう。


論文

参考文献

研究の要旨

量子力学によれば、物理系はその可能な状態の任意の線形重ね合わせ状態にあることができる。この原理は、ミクロな系では日常的に検証されているが、マクロな系では、なぜ古典的な性質で区別できるような状態の重ね合わせが観測されないのかが、いまだに不明である。ここでは、シュレーディンガー・キャット状態の機械的共振器を作製し、1017個の構成原子が2つの逆位相の振動の重ね合わせの状態にあることを実証する。私たちは、重ね合わせのサイズと位相を制御し、そのデコヒーレンスダイナミクスを調べた。この結果は、量子世界と古典世界の境界を探る可能性をもたらし、連続可変の量子情報処理や機械的共振器を用いた計測への応用が期待される。

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masapoco

TEXAL管理人。中学生の時にWindows95を使っていたくらいの年齢。大学では物理を専攻していたこともあり、物理・宇宙関係の話題が得意だが、テクノロジー関係の話題も大好き。最近は半導体関連に特に興味あり。アニメ・ゲーム・文学も好き。最近の推しは、アニメ『サマータイムレンダ』

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