BaiduのチャットボットがChatGPTに決してかなわない理由

The Conversation
投稿日 2023年3月24日 12:15
baidu showcases ernie bot
baidu showcases ernie bot

3月16日、BaiduはOpenAIのChatGPTに対抗する中国の最新のライバル、ERNIE Bot(「Enhanced Representation through kNowledge IntEgration」の略)を発表した。この「マルチモーダル」AI搭載チャットボットは、テキストプロンプトからテキスト、画像、音声、動画を生成することが出来る。

しかし、ERNIEは世間からの評判は芳しくなかった。Baiduの香港上場株は記者会見中に10%下落し、ベータテストは同社が承認した組織グループにのみ開放されている。

ERNIE BotはChatGPTの中国版代用品にはならないだろうが、それは中国国家が望むところかもしれない。中国製AIチャットボットを作ろうとする以前の取り組みが示すように、中国共産党は、イノベーションを犠牲にしてでも、厳しい検閲ルールと研究に対する政府の舵取りを維持することを好んでいる。

デジタル主権とChatGPT

ChatGPTは、デジタル主権に対する中国の保護主義的なアプローチにより、中国では直接アクセス出来ない。中国のデータは中国国内に閉じ込められ、政府のプロパガンダに抵触する情報は検閲される。

BaiduやTencentを含む中国のハイテク企業は、サードパーティーの開発者がChatGPTを自社のサービスに差し込むことを禁止している。

しかし、ChatGPTの隆盛は、活況を呈する不正な市場を生み出した。取り締まりが始まるまで、ChatGPTのログインはeコマースプラットフォームのTaobaoで販売され、中国のソーシャルメディアではチャットボットの能力を示すビデオチュートリアルが公開された。

「XiaoIce」と「BabyQ」

中国で生成AIチャットボットを試行しているハイテク企業は、Baiduが最初で最後ではない。

2017年3月、Tencentは「XiaoIce」と「BabyQ」という2つのソーシャルチャットボットを、それぞれWeChatとQQというメッセージングアプリで提供開始した。

XiaoIceはMicrosoftが開発し、BabyQはTuring Robotという北京のAI企業が作成した。数ヶ月のうちに、この2つのチャットボットは中国の検閲ルールに従って調整されるために削除された。

BabyQは戻ってこなかったが、MicrosoftのXiaoIceは戻ってきて、WeChat、QQ、Weiboなどの主要プラットフォームで数百万人のユーザーにAIコンパニオンのサービスを提供している。

メイド・イン・チャイナ2025とAIの推進

中国が海外で開発されたAIチャットボットだけを採用した場合、中国政府は守勢に回ることになる。チャットボットは人間のフィードバックで動くため、国境を越えたデータの流れを防ぐことができず、中国共産党の政治的利益が脅かされる可能性がある。

2015年、李克強前首相の時代から「Made in China 2025」構想があり、技術力の強化に努めてきた。その中でもAIは大きな焦点となっている。

2023年2月以降、AI、フードデリバリー、Eコマース、ゲームなど多岐にわたる中国のテック企業は、OpenAIに追いつき、自社のChatGPT的な製品を市場に提供しようと躍起になっている。

北京市経済情報局は、一部の有力なハイテク企業に限って、この意欲を支援している。

検閲と文化

中国では、短期的にChatGPTサービスのバージョンが急増し、その多くは消滅するか、大手テック企業に買収されることが予想される。

政府からの支援が少ない中小企業では、検閲にかかる費用を捻出することは難しいだろう。

YuanYuという小さなスタートアップが、1月に中国初のChatGPTスタイルのボットを発表した。ChatYuanと名付けられたこのボットは、WeChatの中で「ミニプログラム」として動作していた。このボットは、政治的な質問に対する回答のスクリーンショットをユーザーがネット上に投稿したため、数週間で停止された。

しかし、中国のユーザーの関心は、やはり漢語系の言語体系に基づいた大規模な言語モデルに向いている。

例えば、ERNIE Botは、ChatGPTよりも中国の歴史、古典文学、方言に精通していると主張している。

政府による操作

北京は2021年の取り締まり以来、ハイテク産業に対するガバナンスを強化してきた。

産業界にとっては、資金と人材の安定した供給が得られるという利点がある。裏を返せば、国内統治や軍事防衛といった北京の目先の利益につながる技術に資源が振り向けられるということだ。

中国のChatGPTの模倣品は、個人よりも企業に利益をもたらすように設計されている可能性が高い。テック大手にとっては、検索エンジンやアプリから産業プロセス、デジタル機器、都市インフラ、クラウドコンピューティングまで、ビジネスのあらゆるレベルに生成AI製品を統合することで、「フルAIスタック」を形成することが目的だ。

感情的な監視と偽情報

AIによるチャットボットは、不利な結果をもたらすこともある。雇用の安定、著作権、学問の誠実さといった普遍的な懸念と並んで、中国では感情的な監視や偽情報といった余分なリスクも存在する。

チャットボットは、会話を通じてユーザーの感情状態を把握することが出来る。この感情を読み取る能力は、ビッグデータとAIの力を拡張し、人々のプライバシーを侵すことになる。

中国では、このような感情監視がさらに「感情権威主義」を確立する可能性がある。中国共産党の指導力を脅かすような感情は、たとえ直接的に述べられていなくても、利用者の処罰を呼び込む可能性を持っているのだ。

AIを搭載したチャットボットや検索エンジンは、中国の国家が組織したプロパガンダや偽情報を合法化する可能性もある。ユーザーはこれらのサービスを信頼し、依存するようになるだろうが、そのインプット、アウトプット、内部プロセスは厳しく検閲されるだろう。

中国の政治や指導者については、議論の対象にはならない。議論を呼ぶような事件や歴史に関しては、中国共産党の視点のみが紹介されるのだ。


本記事は、Fan Yang氏によって執筆され、The Conversationに掲載された記事「AI chatbots with Chinese characteristics: why Baidu’s ChatGPT rival may never measure up」について、Creative Commonsのライセンスおよび執筆者の翻訳許諾の下、翻訳・転載しています。



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