ペロブスカイト太陽電池の完全印刷による製造に世界初成功、大量生産の道筋を示す

masapoco
投稿日
2023年3月20日 12:12
Solar Cell MAIN

英国スウォンジー大学のSPECIFIC Innovation and Knowledge Centreの研究者は、世界初となる完全印刷可能なペロブスカイト太陽電池を開発した。ロールtoロールプロセススロットダイコーティングを使用して作られたこの方法は、太陽電池を低コストで製造することができ、その普及を可能にする。

ペロブスカイト電池は、太陽光エネルギーを直接電気に変換する太陽電池の一種だ。従来のシリコン太陽電池と比べて、製造が安価で簡単であり、レアメタルを必要としないことが特徴となる。また、薄くて柔らかいフレキシブルな形状にできるため、設置場所や用途に応じた柔軟な対応が可能だ。近年では、高いエネルギー変換効率も実現しており、次世代の太陽電池として注目されている 。

ペロブスカイトの大量生産は、印刷技術やコーティング技術を使って試みられてきた。しかし、ロールtoロールでの生産はこれまで実現されていなかった。

ロールtoロールとは、ロール状に巻いたフィルム基材を連続的に加工する技術だ。印刷やコーティング、パターニング、貼合などの工程を一貫して行うことで、高速で大量にフィルムデバイスを製造することが出来る。フィルムデバイスは薄くて軽くて柔軟性があり、透明性や耐熱性などの機能も持つ。タッチパネルやセンサー、ヒーター、アンテナなどの電子デバイスに広く応用されており、この方式は大量生産に向いていることから、コストや時間の節約に繋がる。

研究者らは、この方式の実現に向けて研究を続けてきた。

チームがぶつかった大きなハードルのひとつが、ペロブスカイト太陽電池に塗布される金電極だった。これは、組み立て全体の中で高価な部品であるだけでなく、デバイスをプリントした後にゆっくりと蒸発させるプロセスを用いるため、生産の規模を拡大することが出来ないのだ。

金電極に代わる適切な溶媒を探していたところ、X線回折分析により、カーボン電極インクが下地層を溶かさずに膜の乾燥を実現する適切な溶媒であることを発見した。

「この革新的な層は、低温かつ高速で下地層と互換性を保ちながら連続的に塗布することができます」と、研究に携わったSPECIFIC社の上級研究員であるDavid Beynon氏はプレスリリースで述べている。

さらに、カーボン電極を搭載した太陽電池を分析したところ、硬質ガラス基板上での光電変換性能は蒸着金電極と同等で、13~14%の電力変換効率を示し、長期安定性も実証された。

その後、ロールtoロール生産方式で長さ20mのフレキシブル基板を印刷し、10.8%のエネルギー変換効率を実証したとのことだ。

「わずか4年の間に、この革新的な太陽光発電の方法は、設計と製造、評価と詳細な分析、適応と改良が行われ、世界中で数百万メートルの太陽電池を印刷し設置する可能性がこれまで以上に近くなりました」と、同大学博士研究員のErshad Parvazian氏はプレスリリースで述べている。

研究者たちは今後、ソーラーパネルに似た太陽電池を印刷したものを作り、それを建物に設置して、人々にその効果を実証したいと考えている。


論文

参考文献

研究の要旨

ペロブスカイト太陽電池は、デバイスの効率に大きな期待が寄せられているが、溶液プロセスによる製造によるスケーラビリティも期待されている。ペロブスカイトをスケールアップするための取り組みとして、印刷可能なメソポーラス足場や、フレキシブル基板のスロットダイコーティングによるロールtoロール(R2R)などが行われてきた。しかし、溶液処理可能な裏面電極がないため、R2Rコーティングされたデバイスを完全に実現した例はなく、代わりに高価な蒸着金属コンタクトが後工程として採用されている。本研究では、低温デバイス構造とR2R対応溶液処方の組み合わせにより、層間非互換性や再結合損失を克服した完全R2R塗布型デバイスアーキテクチャを実現した。そこで、SnO2/ペロブスカイト/ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/カーボンのn-i-pデバイス構造を採用し、p型半導体とプリンタブル炭素電極の間にオーミックコンタクトを形成している。特に、蒸着金電極のデバイス性能に匹敵する13~14%の小型デバイス効率を達成した。また、この完全にR2Rコーティングされたペロブスカイトのプロトタイプは、ゲームチェンジャーであり、70%RH、25℃の環境下で1000時間以上にわたって元の効率の84%を保持する非カプセル化長期安定で10%以上(10.8)の安定した電力変換効率に到達した。



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