人間も冬の間に“冬眠”することは健康に良い結果をもたらすかも知れない

masapoco
投稿日
2023年3月6日 19:09
sleeping dark

冬になると、何となくいつもよりも遅くまで寝ていることが多くなったなと感じていたが、どうやらそれはあなたが怠け者なのではなく、生物学的に必要な“自然”な現象かもしれない。

ドイツの研究者らによって、『Frontiers in Neuroscience』誌に発表された研究「Seasonality of human sleep: Polysomnographic data of a neuropsychiatric sleep clinic」によれば、人々は夏の夜に比べ、冬の夜には自然に1時間余分に睡眠を取っていることが判明した。この長い睡眠時間には、長期記憶の形成、感情のコントロール、脳の発達と回復に重要な深い眠りの段階である急速眼球運動(REM)睡眠も30分余分に含まれていたという。

季節が睡眠と覚醒のサイクルに与える影響

私たちの“ヒト”種の睡眠不足は、今に始まったことではない。厚生労働省が令和3年1月に公表したデータ(PDF)によれば、睡眠時間が7時間以下の人の合計が67.7%におよび、日本人は全体的に睡眠不足であると言える。

現代人の睡眠不足の大きな理由は、室内の照明や電子機器などの人工的な光への曝露によって、睡眠に影響を与えるホルモン“メラトニン”が抑制され、私たちの概日リズム(サーカディアンリズム・体内時計)を乱される事が大きな原因である事が研究により明らかになっている。

こうした人工的な光による概日リズムの狂いについては研究が進められていたが、季節の移り変わりが睡眠に及ぼす長期的な影響については、まったく分かっていなかった。ベルリンのシャリテ医科大学のKunz教授と彼の同僚は、この点を明らかにするために、新しい研究を行った。

冬が睡眠に与える影響

2019年の1年間を使って、研究者たちは180人以上の参加者の睡眠をモニターした。参加者は男性90名、女性98名で、全員がベルリンに住んでおり、睡眠に関する困難を訴えていたが、睡眠薬は飲んでいなかった。これらの人々は、研究に参加する前に、ポリソムノグラフィーと呼ばれる睡眠検査を受けた。

参加者は毎月3日間、睡眠ラボに滞在し、自宅では目覚まし時計なしで、いつもと同じように眠るように指示された。睡眠中、参加者は脳波、血中酸素濃度、心拍数、呼吸、眼球や脚の動きを測定するセンサー(すべて睡眠ポリグラフの一部)につながれている。

秋から冬、春、そして夏へと季節が移り変わっていく中で、Kunz氏らは、被験者の睡眠習慣が季節の移り変わりに応じて異なることに気づいた。冬は1時間余分に眠り(ただし、この結果は統計的に有意であることをぎりぎり逃した)、秋は春に比べてレム睡眠に入る時間が25分ほど早くなっていた。また、冬は春に比べ、平均30分多くレム睡眠を経験した。秋には、夜間の前半に起こるノンレム睡眠のうち、記憶や成長、免疫機能に重要な役割を果たすとされる徐波睡眠が速やかに急激に減少しただ。

Kunz氏は、この研究結果は睡眠に問題のある少人数のグループに基づくものであり、健康な被験者の大規模コホートで再現する必要があると警告している。しかし、この発見と同様の研究は、睡眠をいつ寝るか、いつ起きるかという厳格なものではなく、季節の変化によって定義し、日照時間の短い日を利用して眠れるようにする必要性を示しているものだろう。

このような季節に応じた睡眠へのアプローチは、社会と労働インフラが、変化する睡眠ニーズに合わせて時間を調整することを必要とする。特に、脳と骨の健全な発達のために十分な睡眠を必要とする子供のような年齢層にとっては特に重要だろう。実際に諸外国では、そのような方向への取り組みが、少しずつ始まっている。例えば、カリフォルニア州では昨年、学校の始業時間を遅らせる法案が可決され、中学校と高校はそれぞれ午前8時と午前8時30分より早く始業しないようになった。

こうした国では、既にサマータイムが導入されていることもあるが、季節に合わせて変化する我々自身の身体に合った社会制度が整備されることも、国民全体の健康を考えると必要かも知れない。


論文

参考文献

研究の要旨

人工光がヒトの睡眠に及ぼす短期的な影響については研究が進んでいるが、季節によって誘発される長期的な影響についての報告はほとんどない。年間を通じた主観的な睡眠時間の評価では、冬に睡眠時間が大幅に長くなることが示唆されている。我々のレトロスペクティブ研究は、都市環境に住む患者のコホートにおいて、客観的な睡眠測定値の季節変動を調査することを目的とした。2019年、神経精神科的な睡眠障害を有する患者292名を対象に、3泊の睡眠ポリグラフ検査を実施した。診断用の2泊目の測定値を月ごとに平均化し、1年間にわたり分析した。患者には、目覚まし時計が禁止されている以外は、タイミングを含めて「いつも通り」眠るよう助言した。除外基準:睡眠に影響を与えることが知られている向精神薬の投与(N = 96)、レム睡眠潜時>120分(N = 5)、技術的失敗(N = 3)。対象は188名の患者。[睡眠に関する最も一般的な診断名:不眠症(N = 108)、うつ病(N = 59)、睡眠関連呼吸障害(N = 52)。解析の結果、以下のことがわかった。1.総睡眠時間(TST)は夏より冬に長い(最大60分、有意ではない)、2.レム睡眠潜時は春より秋に短い(約25分、p = 0.010)、3.レム睡眠は春より冬に長い(約30分、p = 0.009、TSTの5%、p = 0.011);4.徐波睡眠は冬から夏にかけて安定(約60-70分)、秋に30-50分短い(TSTの%としてのみ有意、10%減少、p = 0.017)。このデータは、睡眠障害のある患者において、都市部に住んでいても、睡眠構造の季節的変動があることを示唆している。健康な集団で再現されれば、季節に合わせた睡眠習慣の必要性を示す最初の証拠になるだろう。



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