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宇宙マイクロ波背景放射とは何か?

本記事はThe Conversationに掲載された、「Curious Kids」という、子供達が疑問に思ったことを専門家に答えてもらうシリーズの記事「Curious Kids: what is cosmic microwave background radiation?」について、Creative Commonsのライセンスおよび執筆者であるChristopher Pattison氏の翻訳許諾の下、翻訳・転載しています。

The Conversation

宇宙マイクロ波背景放射って何?ビッグバンの後に起きたこと?

宇宙マイクロ波背景放射(Cosmic Microwave Background:略称 CMB)は、全宇宙の中で最も古く、最も遠くにある光です。宇宙の始まりとされるビッグバンのすぐ後に生まれたものです。

しかし、私たちが肉眼で見ることができる光は、この光ではありません。私たちが見ることのできる光を可視光線といいますが、それ以外にも光は存在します。マイクロ波も光の一種ですし、骨折の検査に使うX線もそうですし、車の中で音楽を聴くための電波も光の一種です。

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プランク望遠鏡によるCMBの画像。色はCMBの異なるスポットの温度を示している。(画像:ESAおよびPlanck Collaboration, CC BY-SA

CMBは当初、非常にエネルギーの高いX線光でした。それが時間の経過とともにエネルギーを失い、より低いエネルギーのマイクロ波となったのです。

CMBは、宇宙の始まりの光です。この時点では、宇宙は非常に高温で高密度であり、電子や陽子と呼ばれる粒子で満ちていました。これらの粒子は電荷を持っており、光が粒子の1つに到達すると、電荷が光を別の方向へ飛ばしてしまいます。このため、光は遠くまで届きません。

冷却される

しかし、時間とともに宇宙は膨張し、冷えていきました。やがて宇宙が十分に冷えると、電子と陽子が結合して水素の原子を作り始めました。この原子は電荷をもたないので、電子や陽子と同じように光に影響を与えることはありません。そのため、光は水素原子を通り抜け、あたかも宇宙が空っぽであるかのように通り抜けていきます。

宇宙はどこも同じ速度で冷えていくので、このプロセスはどこでも同じ時間で起こったのです。すると突然、光は宇宙のあらゆる場所から同時に非常に遠くまで速く移動できるようになりました。この光は現在も移動し続けており、現在CMBとして地球上の私たちに届いているのです。

CMBの光は、宇宙では常に存在していましたが、最初の原子が形成されるまでは全く遠くへ行くことができませんでした。実際、CMBの光はビッグバンから38万年後に放出されたことが分かっています。ビッグバンからCMB放出までの時間が長いように聞こえますが、宇宙の年齢は約140億年なので、宇宙が非常に若いときに起こったことになります。

CMBは、大昔の宇宙がどのようなものであったかについて、たくさんの大切な情報を教えてくれます。ビッグバン理論によると、初期の宇宙は非常に高温で、放射線に満ちていました。宇宙が膨張し、冷えていくにつれて、この放射線はやがて放出されます。これがまさに、現在私たちが目にしているCMBです。ビッグバン理論が予言した温度まで持っているので、CMBはビッグバン理論が正しいことを示す証拠と言えるでしょう。

偶然の発見

CMBは偶然に発見されました。アメリカのRobert WilsonとArno Penziasという二人の科学者がマイクロ波望遠鏡を使っていたところ、アンテナをどこに向けても同じ余分な信号が見え続けたのです。彼らは、この余分な信号は、望遠鏡の故障か、あるいはアンテナについた鳩のフンが原因ではないかと考えたのです。

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ニュージャージー州ホルムデルにあるベル電話研究所の15mホルムデルホーンアンテナは、電波天文学者のロバート・ウィルソンとアルノ・ペンジアスがCMBを発見するために使用したものです。(画像:NASA via Wikimedia Commons

やがて彼らは、ビッグバン理論が予言したCMBの存在を、自分たちが世界で初めて検出したことに気づいたのです。彼らはその発見でノーベル賞を受賞しました。

それ以来、私たちは宇宙へ多くの望遠鏡を送り、CMBのより良い画像を得るために努力を重ねてきました。宇宙で最も古い光を見ることは、私たちが今見ているものがどのように生まれたかを理解するのに役立ちます

著者紹介
chris pattison

DR. Christopher Pattison

Senior Research Associate at the Institute of Cosmology and Gravitation, University of Portsmouth

宇宙が非常に短い時間で非常に大きく膨張する「インフレーション」と呼ばれる宇宙の超初期の時期を研究し、2020年5月に博士課程を修了

現在はポーツマス大学で、天文学や天体物理学から技術や知識、ソフトウェアを取り出し、他の研究分野(多くの場合、全く異なる分野)に応用するイノベーションプロジェクトに携わっています。例えば、望遠鏡のソフトウェアを使って、飛沫による病気の広がりを研究したり、機械学習を使って骨折を診断したりするプロジェクトに携わっています。

また、科学コミュニケーションにも非常に興味があります。研究以外では、宇宙論や天文学に関するさまざまなトピックを扱うYouTubeチャンネル(単にChris Pattisonと呼ぶ)を運営しています。

Twitter : @ChrisDPattison

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執筆者
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masapoco

TEXAL管理人。中学生の時にWindows95を使っていたくらいの年齢。大学では物理を専攻していたこともあり、物理・宇宙関係の話題が得意だが、テクノロジー関係の話題も大好き。最近は半導体関連に特に興味あり。アニメ・ゲーム・文学も好き。最近の推しは、アニメ『サマータイムレンダ』

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